collection コレクション展
内容
古代ギリシアの詩人ロンゴスによって書かれた『ダフニスとクロエ』は、エーゲ海に浮かぶレスボス島の豊かな自然を舞台に展開する恋愛小説。赤子のときに捨てられたダフニスとクロエはそれぞれ牧人に育てられ、美しく成長します。自分たちが高貴な生まれであるということ知らないまま出会った2人は恋に落ち、さまざまな冒険や困難を経て最終的に結婚するという物語。美しい自然のなかで妖精や牧神パンが登場する物語は理想郷として西洋で受け継がれ、美術だけでなく音楽や演劇にもインスピレーションを与えました。シャガールも1958年にパリ・オペラ座で再演されたバレエ「ダフニスとクロエ」の舞台美術と衣装を手掛けました。
52年、出版業者テリア―ドから『ダフニスとクロエ』の制作依頼を受けたシャガールは、52年と54年に物語の舞台となったギリシアの島々を実際に訪れ、何枚ものスケッチを描いています。豪華な多色刷りのリトグラフで描かれた世界をご覧ください。
マルク・シャガール プロフィール
1887年、シャガールはロシアの街、ヴィテブスク(現在のベラルーシ共和国)の貧しいユダヤ人の家庭に生まれました。1911年からパリに出て、ラ・リューシュ(ハチの巣)というアトリエで制作に励む一方、アポリネール、サンドラールら詩人たちとも交流しました。キュビスムやフォーヴィスムを中心とする最新の美術に影響を受けるものの、恋人や花束といったモティーフが浮遊する独自の表現を確立していきます。 1915年には、生涯シャガールが愛し、創造の源泉となった同じユダヤ人のベラと結婚します。翌年には娘イダが生まれ、画家としての名声も高まりますが、ナチによるユダヤ民族の迫害政策や、ロシア革命、二度の世界大戦などの苦難に見舞われ、ヨーロッパ各地を転々としたのちアメリカへ亡命、その地でベラを失くします。ベラの死後、しばらく筆を取れなくなっていましたが、イダをはじめとする周囲の支えにより制作を再開し、「色彩の魔術師」と呼ばれるような鮮やかな色彩表現を深めていきます。1950年から南仏のヴァンスに定住し、晩年にいたるまで旺盛な制作意欲を発揮しましたが、1985年に惜しまれつつ逝去しました。享年97歳でした。
2021年度シャガール・コレクション展テーマ
「溢れる色彩」
《花嫁の花束》や《オルジュヴァルの夜》のように赤や青を全面に施したもの、ピンク色に塗られた空のある《路上の花束》……シャガールの油彩作品の色は現実とは異なる色を用いながらきらめくような色で、見る人を惹きつけます。それは版画作品にも当てはまり、思い通りの色を出すために試行錯誤が行われました。
今期はシャガールが制作した色彩版画から『ダフニスとクロエ』、『オデュッセイア』、『アラビアン・ナイトからの四つの物語』、『ポエム』の4シリーズを展示します。なかでもカラーリトグラフで刷られた『ダフニスとクロエ』は、20から25枚もの版を用いて制作されました。純度の高い色を駆使して表される本作は、物語の明るく牧歌的な雰囲気を伝えます。シャガールの色彩に対するこだわりが感じられる作品をご覧ください。