collection コレクション展
内容
「…“サーカス”という言葉には魔力が秘められている。古代から伝わる踊りの中で、人間やほほえみ、足や腕のしぐさが偉大な芸術に一変する。サーカスは私にとっても悲しく思えるドラマである。」(Marc Chagall Le Cirque, 1981)
20世紀初頭の革命的なアーティストたちは、みんなサーカスが大好きでした。ピカソ、マティス、ルオーたちは、なんども自分の作品の主題にサーカスを取り上げます。シャガールもサーカスの世界を度々描きました。
シャガールにとっては、ピエロや軽業師は神話に登場する人物や英雄と同等の、偉大な存在でした。ギャグを振りまきながら理想を追い求める彼らは、現代社会に翻弄される人類の象徴として描かれます。
1967年に刊行された版画集《サーカス》は、この主題の集大成です。シャガールの渾身の表現をご堪能ください。
マルク・シャガール プロフィール
1887年、シャガールはロシアの街、ヴィテブスク(現在のベラルーシ共和国)の貧しいユダヤ人の家庭に生まれました。1911年からパリに出て、ラ・リューシュ(ハチの巣)というアトリエで制作に励む一方、アポリネール、サンドラールら詩人たちとも交流しました。キュビスムやフォーヴィスムを中心とする最新の美術に影響を受けるものの、恋人や花束といったモティーフが浮遊する独自の表現を確立していきます。 1915年には、生涯シャガールが愛し、創造の源泉となった同じユダヤ人のベラと結婚します。翌年には娘イダが生まれ、画家としての名声も高まりますが、ナチによるユダヤ民族の迫害政策や、ロシア革命、二度の世界大戦などの苦難に見舞われ、ヨーロッパ各地を転々としたのちアメリカへ亡命、その地でベラを失くします。ベラの死後、しばらく筆を取れなくなっていましたが、イダをはじめとする周囲の支えにより制作を再開し、「色彩の魔術師」と呼ばれるような鮮やかな色彩表現を深めていきます。1950年から南仏のヴァンスに定住し、晩年にいたるまで旺盛な制作意欲を発揮しましたが、1985年に惜しまれつつ逝去しました。享年97歳でした。
2023年度シャガール・コレクション展テーマ
「シャガールと舞台」
第1期はNHKの連続テレビ小説「らんまん」の放送にあわせ、花をテーマにした作品を、第2期~5期はサーカス、演劇、バレエといった舞台にかかわる作品を展示します。
シャガールは生涯を通して舞台に関する作品を制作しました。特に記念碑的作品として有名なのは、63年に依頼を受けたパリ・オペラ座の天井画でしょう。当時70歳を超えていたシャガールは、円形の天井画に14の舞台演目の主題を選び、描きました。その中には今回展示する《ダフニスとクロエ》も含まれています。また、人を楽しませる見世物であるサーカスもシャガールにとって重要なテーマでした。《サーカス》では空中ブランコや綱渡りなど、重力に反して軽やかに動くサーカスの軽業師の姿が魅力的に描かれています。シャガールが描いた華やかで躍動感のある舞台の世界をご覧ください。